12月1日「サンタクロースはどこのひと」
11月も終わり頃になれば、街路樹どもに電飾が縛り付けられる。
クリスマスムード一色って感じだな。
私はと言えば特に何の感情も湧いてこなかった。
期待というのは実感がなければそもそも湧いてこないらしい。
11月最後の日。私はいつも通り毛布を頭から被って眠りについた。
朝を迎え、錆びついたように重い瞼を開けると。
キャッホー。起きて。朝だよ
謎の女の顔面が目の前に迫っていた。
うわーーーーーーっ
ズボボン
私が放った渾身の正拳は見事、女の顔面をぶち抜きピリオドの向こうへ突き抜けた。
ウッ。涙袋が
局地的だな
てかあんた誰?なんで私の部屋に?
それを語るには顔面の自由があまりになさすぎる
それもそうだ。私はひとまず拳を引き抜くことに決めた。
まっすぐ抜いてね。綺麗な太刀筋だったし今なら元通りくっつくかも
パンチにその例はないだろ
改めておはよう。わたしはゆあみ。
ゴメンまだ抜いてない
改めておはよう。わたしはゆあみ。
ああそう。私はカホ
知ってる。キャッホね
そう呼ばれたことないんだけど。てか何なの、あんた結局
あなた、今までクリスマスプレゼント貰ったことないでしょ
そうだけど
私の誕生日は12月25日。クリスマスと同日だ。
誕生日とクリスマスじゃ、誕生日の方が若干強い。真正面にぶつかれば押し負ける運命らしい。
だから、私にはクリスマスを祝われた経験がない。
わたしはサンタみたいなもの
サンタぁ?
今まであなたが貰えなかった24年分のクリスマスプレゼントを、24日かけて取り戻させてあげる
話がよく見えないんだけど
わたしは姿がよく見えない
なんの?
またまた、隠しちゃってさ
飼ってんでしょ。ポメラニアン16匹
飼ってないよ
そうじゃなきゃありえない臭いがするんだけど
すまねえな幻のポメラニアンを感じさせて
仕事が忙しくて休みが取れないから、部屋も掃除できないんだよ
休み。やすみ、休みね。うん
最初のプレゼントは決まりね
テレビつけて、テレビ
彼女に言われるがまま、テレビのスイッチを入れた。
朝のニュースが流れ出す。
「ここで速報です。先程、臨時国会が開かれ「株式会社テニス肘工業は12月いっぱいお休みでその間も給与は支払われる」という法案が可決されました。」
は、は?
しーっ
テニス肘工業って、私の職場……
「記者の取材に対し菅総理は「まあこういうのもありだと思うで全集中?これからバンバンやっていくんでよろしくだ全集中」と恍惚の恍を表明しました」
「なおこの法案は、なんかスカスカで彩りが足りなかったので軽犯罪法の第5条として新たに華を添えられるそうです。」
えーっ
「続いてはスポーツの話題です。昨夜、ゼスプリすっぱいぱいスタジアムで開催されたヤクルト対西武の試合。一進一退の攻防を繰り広げた結果、82-0でヤクルトが西武を下し苦い思い出となりました」
ブチッ
信じられない……
ヤクルトが勝つなんてね
そっちじゃないよ
私の会社が、法律で休みになっちゃった。しかも軽犯罪法で
そういう世界に来たんだよ。わかる?
う……
うん……
さ、休みになったことだしまずは部屋のお掃除ね
キャッホは台所とトイレをお願い。わたしは夏ポテトの溝のホコリを取ってるから
溜まってるわけないだろ
こうして、ゆあみと名乗る女に毎日クリスマスを祝われることとなった私。
この先一体何が待っているんだろうか。